2005年09月23日
ローマ人の物語 (20) 悪名高き皇帝たち[四]
ローマ人の物語 (20) 悪名高き皇帝たち[四]塩野 七生(著)
新潮社 (2005-08)
¥ 460
ISBN:978-4101181707
おそらく全ローマ皇帝の中で最も有名なネロを扱った分冊。
ローマの大火の後、キリスト教徒を処刑したことからキリスト教会から憎まれ、その後2000年間悪名が轟いているのがネロである。義理の弟や実母を殺させたりするなどの悪行も弁解はできない。歌手としてステージに立ったり、首都を放っておいてギリシャに巡業に出かけたりといった為政者に相応しくない行為もあった。
著者はネロに同情的なようだ。母殺しもやむを得なかったように書くし、ローマの大火の後、ドムス・アウレアの建築を始めたのもネロ個人のためだけでなく、市民のためのものであったと説く。しかし、大ローマ帝国を統治するには、少々甘い判断力しか持っていなかったようだ。結局、ネロは見捨てられ自殺することになる。
巻末には詳細な年表があり、ティベリウスが皇帝の後継者になってからネロの死までが書かれている。
投稿者 augustus : 2005/09/23 11:01 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年09月20日
ローマ人の物語 (19) 悪名高き皇帝たち[三]
ローマ人の物語 (19) 悪名高き皇帝たち[三]塩野 七生(著)
新潮社 (2005-08)
¥ 420
ISBN:978-4101181691
「悪名高き皇帝たち」の第3分冊。第4代皇帝クラウディウスを扱っている。
クラウディウスは悪妻たち解放奴隷たちの言いなりになっていた皇帝というイメージもあるが、著者はオスティアの港湾工事や元老院議員の資格をガリア人にまで広げたことなどを高く評価し、解放奴隷の重用にも理解を示している。
クラウディウスの最大の弱点であろう悪妻の言いなりになりがちだった点はスエトニウスやタキトゥスなど古代の人と著者の意見は一致しているようだ。しかし、悪妻メッサリーナやアグリッピーナの醜聞についてはあまり詳しく書かれていない。アグリッピーナによるクラウディウスの毒殺についても極あっさりとした記述で済ませている。きっと著者はクラウディウスの悪妻たちについての有名すぎる逸話は書く気にならなかったのだろう。クラウディウスに興味を持ったなら、スエトニウスなど他の本も読んでみて欲しい。
投稿者 augustus : 2005/09/20 21:04 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年09月19日
ローマ人の物語(17),(18) 悪名高き皇帝たち[一],[二]
ローマ人の物語 (17) 悪名高き皇帝たち[一]塩野 七生(著)
新潮社 (2005-08)
¥ 460
ISBN:978-4101181677
ローマ人の物語 (18) 悪名高き皇帝たち[二]
塩野 七生(著)
新潮社 (2005-08)
¥ 420
ISBN:978-4101181684
[一」と[二]の前半は第二代皇帝ティベリウスを扱っている。
ティベリウスは偽善的、陰気だと言われ、タキトゥスやスエトニウスが書き残した元老院との確執、晩年の性的スキャンダルもあり、評判が良いとは言えない。しかし、著者はティベリウスを本音で生きようとした「冷徹なプロフェッショナル」として好意的に描く。アウグストゥスが築いたローマ皇帝という地位を確固たるものにしてリレーした地味だけど有能な皇帝がティベリウスだと言うのには賛成だ。
[二]の後半は古来から狂気の皇帝と言われるカリグラだ。スキャンダルに事欠かない皇帝だが、著者は彼をモンスターでもなく頭も悪くなかったと評する。愛馬を執政官にしようとした有名なエピソードも著者によれば元老院を馬鹿にしたちょっとした冗談だったとされる。実際どうなのかはわからないが面白い見方であることは間違いない。
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投稿者 augustus : 2005/09/19 07:34 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年09月12日
ローマ皇帝歴代誌
ローマ皇帝歴代誌クリス スカー(著), 月村 澄枝(翻訳), 青柳 正規(監修)
創元社 (1998-11)
¥ 3,465
ISBN:978-4422215112
個性豊かな歴代皇帝の生き方、業績、周囲の人々について記述することで帝政ローマの歴史を概観しようとする本。
慎重に権力を固めていった皇帝もいれば、ハチャメチャな浪費で有名な皇帝もいる。人格を讃えられた皇帝もいれば、親殺し兄弟殺しなどで批判された皇帝もいる。その地位は決して安泰ではなく、殺された皇帝も多い。そんな様々な皇帝の生き方を身近に感じさせてくれる本である。図版も多く、記述もバランスがとれており、お薦めの一冊。当サイトも大いにこの本を参考にしている。
投稿者 augustus : 2005/09/12 21:56 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年08月13日
ユダヤ人とローマ帝国
ユダヤ人とローマ帝国大沢 武男(著)
講談社 (2001-10)
¥ 735
ISBN:978-4061495722
ナチス・ドイツや中世に顕著に見られる反ユダヤ人思想は古代ローマ時代に源を遡ることができる。本書はどのようにして反ユダヤ人思想が形成されてきたのかを解明しようとしている。
ローマ時代以前から、ユダヤ人は一神教を固く守り、他民族と摩擦を引き起こしてきた。一方で、自分たちの存在を守るため共和政ローマに接近し、その保護を受けてきた。
帝政期に入ってもユダヤ人は独自の宗教とその律法の慣習に従って生きる権利を認められてきた。ネロやハドリアヌスの時代の反乱で、神殿を失ったり、エルサレムから追い出されたりし、危険で警戒すべき民族という印象をローマの支配者層に与えてしまった。しかし、帝国側からのユダヤ人迫害は散発的、限定的なものであって、帝国は基本的にはユダヤ人を保護していたようだ。
最初期のキリスト教徒はほとんどユダヤ人であった。異邦人たちにキリスト教が受け入れられていき、福音書が成立するころまでにユダヤ人はキリスト殺しであるという考え方が作られたようである。
キリスト教がローマの支配的宗教となると、教会側から反ユダヤ的教会法がかなり出されている。ユダヤ人でありユダヤ教の慣習の中で生きているキリスト教徒もまだいたようだが、キリスト教会は彼らをユダヤ教の慣習から切り離し、ユダヤ教徒をキリスト教徒から隔離しようとしたようである。
ユダヤ教徒をキリスト教に強制改宗させようとする動きまで出てくる。
古代末期の教父であるアウグスティヌスの考え方を本書は以下のように書いている。
ユダヤ人の罪業を絶えず意識している教会にとってユダヤの民は「教会の敵」であるが、同時に彼らはキリストの真を証明するための「教会の下僕であり奴隷」なのであって、ユダヤ人が祖国なき流浪の民として四散したのも、キリスト教が世界万民に広がり、至るところで発展するために定められたことだという。ユダヤ民族の惨めな状態における生存、存続こそが、教会のための「証」であり、「奉仕」であるとされたのである。「民族全体でキリスト殺しの罪を背負って惨めに生きてろ」ってことだろうが、怖い考え方である。このキリスト教会側の考え方で反ユダヤ思想が決定的になったのだろう。
投稿者 augustus : 2005/08/13 13:50 | コメント (0) | トラックバック (0)
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